§2 ステア特性
ステア特性にはアンダーステア、ニュートラルステア、オーバーステア、リバースステアがる
図-1に示すように、ある円の上でステアリングホイールの角度を一定に保ったまま車を旋回させている状態で、車の速度を増していくと車両が元の円の外側に向かっていくものをアンダーステア(US)という
(図-1ではステアリングホイールの角度を一定に保ったまま速度を増していくと、最初の円から離れていく様子を表している)
速度を上げても最初の円の上に留まれるものを、ニュートラルステア(NS)という
同様にステアリングホイールの角度を一定に保ったまま速度を増していくと、車両が元の円の内側に向かっていくものをオーバーステア(OS)という
(図-1ではステアリングホイールの角度を一定に保ったまま速度を増していくと、最初の円の内側に入っていく様子を表している)
この他に、初期はアンダーステアの特性を示すが、途中からオーバーステアに変化するリバースステアがある
図ー1 ステア特性の種類
車両重量1,000kg、前後重量配分が50:50と、60:40の車両が横加速度0.2Gで定常円旋回をする場合について、図-2の輪荷重とコーナーリングパワーの関係を基に車両のステア特性を比較する
図ー2 輪荷重で変わるコーナーリングパワー
用語の解説
コナーリングパワー:横滑り角1°当りに発生する横力。
横滑り角が増えて行くにつれて増加の割合が低下する傾向がある
タイヤサイズ、タイヤの性格により異なるが、同じタイヤでも輪荷重により異なる
コナーリングフォース:横滑り角(車両の進む方向とタイヤの向きが成す角)に応じて生じる力
輪荷重が増えるにつれて増加の割合が低下する傾向がある
コーナーリングパワーにすべり角を乗じた値
横滑り角:車両の進行方向とタイヤの向きの成す角
輪荷重:タイヤにかかる垂直方向の荷重(一輪あたりにかかる車の重さ)
ここでは理解を容易にするため、旋回による荷重移動はなし、左右輪をひとつに考え、前1輪、後1輪で考える
前後重量配分が60:40の場合を考える(図ー3参照)
前後重量配分が50:50の場合、前後輪にはそれぞれに同等の、500kg×0.2G=100kg遠心力が発生する
定常円上で旋回を続けるにはこの遠心力に釣り合うように、前後輪それぞれに100kgのコーナーリングフォースが必要となる
図-2のように500kgのコーナーリングパワーは25kg/°だから、前後輪とも100kg÷25kg/°=4°の滑り角が必要になることになる
図―3 前後輪等荷重の場合の前後輪滑り角(角度は強調してあります)
次に前後重量配分が60:40の場合を考える(図ー4参照)
後輪に必要なコーナーリングフォースは400kg×0.2G=80kgで、400kgのコナーリングパワー22kg/°から、80kg÷22kg/°=3.64degとなり,後輪荷重500kg時に対し、後輪の必要横滑り角は、前後荷重配分50:50の車両が必要な4deg.から0.36deg.少なくてよい事になる
一方、前輪に必要なコーナーリングフォースは600kg×0.2G=120kgで、600kgのコナーリングパワー27kg/°から、120kg÷27kg/°=4.44deg.が必要になり、タイヤ滑り角は前後荷重配分50:50の車両が必要とする4°より0.44deg.多くなる
しかし車体に対して固定されている後輪の滑り角が0.36deg.余分であり、その分を補正する(滑り角を少なくするために車体が外に向く必要がある)ことが必要になる
車両を外に向けた結果、前輪の滑り角は0.36deg.不足するので車両を定常円旋回に戻すためには前輪を0.36deg.切り増しすることが必要になる
これが前後輪重量配分50:50と60:40の基本的な違いである
図―5 前後輪で荷重が異なる場合の前後輪滑り角(角度は強調してあります)
次に同じ円周上で車速を上げて、重量配分60:40の車両での横加速度0.4Gについて考える
後輪に必要なコーナーリングフォースは400kg×0.4G=160kgとなり、400kg時のコーナーリングパワー22kg/deg.から後輪の旋回円接線に対しての横滑り角は7.27degとなる
前輪に必要なコーナーリングフォースは600kg×0.4G=240kgとなり、600kg時のコーナーキングパワー27kg/deg.から旋回円接線に対しての横滑り角は8.88deg.となる
後輪では横加速度0.2Gに比べ3.63deg(7.27-3.64)大きなタイヤ横滑り角が必要なので、車両に対して固定されている後輪に横滑り角をつけるため後輪(車両が内側に向きを変えることになる)が進行方向に対して3.63deg内向きとなる
その結果車両は3.63deg内向きになり、0.2Gで4.44deg.あつた前輪の横滑り角に3.63deg.が加わっても8.07deg.で、前輪に必要な8.88deg.に0.81deg不足することになる
このままステアリングホイールの角度を一定に保っていると、前輪のコーナーリングフォースが遠心力に負けて、車両が円周の外側に向かっていくことになる
ステアリングギヤ比を15:1とすれば0.2G時に比べ、約12度の切り足しが必要になるアンダーステアとなる
これが、一般的に前輪荷重が大きいFWD車が、アンダーステアとなる原因である
次に同じ円周上で車速を上げて、重量配分50:50の車両での横加速度0.4Gについて考える
一方、前後重量配分が50:50の場合は、前後輪ともに8deg.の横滑り角が必要だが、車体に固定されている後輪に4deg.の横滑り角を付加する結果、車両が車両進行方向に対し4deg.内向きとなり、その結果前輪にも4deg.が自動的に付加され、前輪の横滑り角が8degとなり、ステアリングの修正が必要のないニュートラルステアとなる
従って前後重量配分を50:50とすることで、一般的にコントロール性の高いステア特性が得られることになる
ここまでで説明してきましたように、注目すべきは、
「度」以下のタイヤの向きが、サスペンションによってコントロールされなければならないことである
走りの品質を上げるには、前後輪を結ぶ車体剛性が高く、入力に対しても連続的に反応し、初期のサスペンション設定値を維持できる精度の高いサスペンションが要求されることになる
自動車概論 §1
自動車の仕組
自動車の機能は大きく分けて、「走る」、「曲がる」、「止まる」の3っの要素で成り立っている
■走る(動力編)
(走るための仕組み)
エンジン
自動車は、ガソリン(軽油:ヂーゼルエンジンの場合)と空気を混合させた気体を爆発させ、その力で走る(図―1はそのイメージ図)
図ー1 動力伝達系のイメージ図
エンジンからの回転力を、クラッチを介して変速機に伝達する
変速機では走行条件に合ったギヤを選択し、エンジンからの力を変えてタイヤに伝達する
後述するが、通常の走行では、大きなエンジン出力は必要ないが、発進や加速では大きな力が必要となる
この発進や加速に必要な力をエンジンだけに求めると、非常に大きな排気量が必要になってしまう
そこでエンジンの回転数に対して車輪の回転速度を低くして力を増やす装置が変速機である
エンジンの出力が一定の場合、変速機で回転数を落とすと、力はその減速比に反比例して増えることになる
車のカタログで変速比と表示されている数値が、これに相当する
図―2 有段変速機のギヤ比表示
図―3はエンジンが燃料と空気を吸入し、燃焼(爆発)させ力に変える(膨張)工程を表している
図ー3 4サイクルガソリンエンジンの工程
①先ずはピストンが下降することでシリンダ内が負圧(大気の圧力より低くなる)になり、吸気バルブを通して気化したガソリンと空気をシ
リンダ内に吸い込む
この時最も効率よくエネルギーを引き出すガソリンと空気の割合は、重量比でガソリン1に対して空気が14.7である
ガソリンの割合が多すぎても少なすぎても、燃えるが爆発力は大きくない
爆発力を最大にすることで最大のエネルギーを得ることができる
現在ではコンピューターで吸い込んだ空気の重量を算出し、それに見合ったガソリンを吸気管や、シリンダに直接噴射させている
シリンダ内に直接噴射する方がエンジン出力や排気ガスをコントロールしやすいので、シリンダへの直接噴射が増えている
この方式をダイレクト噴射と言う
図―2のバルブが付いているところを、シリンダの上についていることから、シリンダヘッドといい、このシリンダヘッドに燃料噴射ノズルが付く
吸入管噴射の場合は吸気バルブの上流に燃料噴射ノズルが付く
②混合気は圧縮後に点火爆発させることで、効率よくエネルギーを取り出せるので、ピストンを上昇させ混合気を圧縮する
車のカタログでエンジンの項目に圧縮比と記されたところがあるが、これが吸い込んだ混合気を圧縮させる比率であり、
ピストンが一番下がった時の燃焼室容積を、ピストンが一番上に上がった時の容量で割った値です。
これが大きいと燃焼効率が高くなるが、高すぎると異常燃焼がおこり、エンジンを壊したりする
エンジンを壊すことなく圧縮比を上げるのが技術力になる
③圧縮させた混合気に点火プラグを用いて点火する
点火された混合気は爆発を起こし膨張してピストンを押し下げ、この力をクランクシャフトを利用して回転運動に変換させる
これでタイヤを回転させる力が取り出せる事になる
また、この回転力はクラッチの説明で出てくるフライホイールに蓄えられ、④の排気ガスの排除や、①の混合気の吸入エネルギーとしても利用さる
④ピストンを押し下げた燃焼ガスはエネルギーを失っているので、クランクシャフトの回転を利用して上昇するピストンにより、排気バルブ
からシリンダ外へ押し出す。
これが車の後方にあるマフラーから出てくる排気ガスである
その後①の工程に戻る
この四つの工程をとるので4サイクルエンジンと呼ばれる
カム&カムシャフト
吸気バルブは吸気時に、排気バルブは燃焼ガスの廃棄時のみ開き、それ以外は閉じています。
(実のところエンジンの効率を最大にするため、それ以外の工程でも開いています)
この操作は吸気カム、排気カムによって行われます。
吸気カムや排気カムはシリンダの数に応じたものがシャフト(軸)に取り付けられており、このシャフトをカムシャフトと呼びます。
カムシャフトは、チェーンや歯の付いたベルトでクランクシャフトに連結され、クラックシャフトの2分の1の回転数で回されます。
マフラー(消音器)
エンジンから排出された燃焼ガスは、十分なエネルギー(圧力)を持っているので、そのまま排出すると大きな音を発することになるので、マフラーにより圧力を下げることで騒音をまき散らかさないようにする
また、エンジンとマフラーの間には触媒と言われる装置があり、ここでは燃焼により作られた有害な物質を、貴金属を利用して浄化し、人体に害のないレベルまで低減している
図―4は4気筒(4シリンダ)エンジンの模式図
エンジンの中はこんなふうになっている
現在のエンジンでは1シリンダ当たり、吸入や排気の効率から、吸気バルブ2、排気バルブ2の4バルブを採用しているエンジンが一般的である
4気筒エンジンだと4(バルブ)×4(気筒)で16バルブなどとカタログに記載されている
クラッチ(エンジンとトランスミッションの間に取り付けられている)
トランスミッション
マニュアルトランスミッションとオートマチックトランスミッション
①マニュアルトランスミッション(手動変速機)の場合
クラッチとは、エンジンとミッション(変速機)の間に取り付けられている動力伝達装置のことである
クラッチを操作することにより、エンジンのパワーをミッションに伝えたり、遮断したりすることができ、クルマの発進時、停止時、ギヤの変速時には欠かせないものである
クラッチペダルを踏み込むことで、レリーズベアリングが図では左側に押され、クラッチカバーに取り付けられた梃子に作用し、クラッチ・ディスクをフライホイールから離すことで、クラッチを切る(エンジンンと変速機の連結を切断する)ことが出来る
車両を発進するときにローギヤに入れる場合や変速ギヤを変更する時に、クラッチペダルを踏んでエンジンの動力を切断する仕組になっている
特に発進時では車両が停止しているで、クラッチが繋がっている状態ではギヤを入れることが出来ない
ギヤを入れた後に序々にクラッチをつないで(いわゆる半クラッチ)車両を発進させる
図―5 マニュアルクラッチの仕組 トランスミッション以降は図ー1を参照
※フライホール(はずみ車)
エンジンのところで爆発力がクランクシャフトを回転させることを説明したが、クランクシャフトに取り付けられてフライホイールがエネルギーを蓄える事で、ピストンを押し上げて排気ガスをシリンダ外に押し出す力として供給される(クラッチ機能とは直接関係ないが、クラッチの一部品として構成されている)
②オートマチックトランスミッション(1)(頭文字をとってATとも呼ばれている)
マニアルミッションでは運転者が走行状況を判断し、状況に応じたギヤを運転者自身が選択するが、オートマチックトランスミッションでは、コンピューターが状況を判断し走行状態に最適なギヤを自動で選択する
図―6 オートマチックトランスミッションのクラッチ
クラッチの操作も自動的に行えるように、マニュアルクラッチとは異なる流体クラッチであるトルクコンバータ(トルコンなどと呼ばれています)を使用している
(トルクコンバータはエンジンの力を変換できる機能があるが、ここではその説明を割愛する)
原理はオイルを満たしたトルコンケース内にエンジンで駆動されるプロペラがあり、そのプロペラがオイルの流れを作る
このオイルの流をうけてトランスミッション側のプロペラがまわり駆動力が発生する
これでは効率が悪いので、実際の車では効率を落とさない仕組が施されている
流体では入力軸と出力軸が液体(この場合トルコンオイル)で繋がっているので、出力軸の回転数は入力軸の回転数よりも低くなる
つまり滑っているわけで(実はこのすべりが力を発生させる)、これでは燃費が悪くなるので、一定速度で走る場合では、機械的なクラッチで接続され滑りを止める(ロックアップと呼ばれる)ことで、燃費を向上させる
③オートマチックトランスミッション(2)
今までのオートマチックトランスミッションの構造は、マニュアルトランスミッションの様にギヤの組み合わせで変速していたが、最近ではCVT(Continuously Variable Transmission[無段連続変速機])と呼ばれるものが主流になっている
CVTは通常の変速ギヤを使用せず、2つのプーリー(滑車)にベルトを通し、プーリーの径を変化させることで連続的な変速を可能にする
ギヤ式のオートマチックトランスミッション同様に、車の走行状況をコンピューターが判断し、入力側のプーリーと出力側のプーリーの径を連続的に変化させ、無段階に変速できるのが特徴である
走行状態に応じて適切なエンジン回転数(効率の良いエンジン回転数)を得ることが出来るので、燃費の改善効果が大きくなる
従来はベルト(金属製)による動力伝達方式が主流の為、大出力のエンジンでは耐久性に問題があること、走行時の質感が十分でないことから、高級車にはあまり使われていなかったが、技術の進歩により徐々に排気量の大きな車に対応できるようになってきた
図―7 CVTの概念図(ドライブ:エンジン側、ドリブン車輪側)
図―8 CVTのギヤ比の表示(連続的に変化するので範囲で表示さる)
2.396がLOWの状態、0.428がオーバードライブの状態。この間を連続的に変化する
③オートマチックトランスミッション(3)
最近ではマニュアルトランスミッションを全て自動化し、なおかつ変速時間を短縮したDCT(Dual Clutch Transmission)やDSG(Direct-Shift Gearbox)と呼ばれる変速機が欧州車を中心に採用されている
構造的にはマニュアルトランスミッションに似ているが、クラッチペダルを持たないので(実際はクラッチをコンピューター制御している)日本や欧州等ではDCT搭載車両は法規上AT車に分類されている
CVTでは金属ベルトを使用するので、力の伝達効率がギヤタイプより低くなるが、DCT(DSG)はマニュアルトランスミッションと同様に伝達効率の高いギヤタイプを使用し、高速走行時の燃費を落とさない上、変速時間を短縮化出来るような特徴があり、高速走行の比率の高いヨーロッパ車に採用されている例が多い
プロペラシャフト
前輪駆動車(FF)では、エンジンの力をトランスミッションで調整し、出力軸で直接前輪を駆動するが、四輪駆動車や後輪駆動車など、エンジンンと駆動する車輪が離れている構造の車では、プロペラシャフトと呼ばれる回転軸で駆動輪まで動力を伝達する
(したがって、前輪駆動車にはプロペラシャフトはない)
プロペラシャフトは車体中央を前後に配列され、後方にある回転方向を変更する機構が組み込まれたディファレンシャルギヤに連結され、エンジンで発生した駆動力を駆動輪に伝達する
図―9 プロペラシャフトレイアウト 出典:http://www.subaru.jp/
ディファレンシャルギヤ
一般的には「デフ」と呼ばれているが、正式にはディファレンシャルギヤと呼ぶ
日本語名は差動装置
自動車がコーナーを曲がる時、コーナーの外側のタイヤが走る距離と内側のタイヤが走る距離とが異なるために発生する左右駆動輪の回転差を吸収し、スムーズな旋回を実現するための装置として、前輪駆動後輪駆動を問わず、ほとんどの車に採用されている
図ー10 後輪軸上に取り付けられたディファレンシャルキャリアとその模式図
図―11 前輪駆動のディファレンシャルギヤ
(エンジンの回転軸とタイヤの回転軸が並行なので、回転軸方向の変換部分はない)
最終減速ギヤ
一般的にディファレンシャルギヤとセットで取り付けられている
図―10のプロペラシャフトの先端にあるドライブピニオン(歯車A)と車輪軸上に取り付けられているリングギヤ(歯車B)の組み合わせで減速比が決まる
図―11ではギヤAとギヤBの組み合わせになる
図―2、8の最下段にある減速比がこれに相当する
実際に車を走らせるにはトランスミッションでの変速(減速してトルクを上げる)だけでは力が不足するので、最終減速ギヤで駆動力を上げている
最初からトランスミッションで最終減速比まで下げてしまえば、最終減速ギヤは不要となるが、噛み合わせるギヤ比を4倍程度まで変更しなくてはならず、トランスミッションのスペースの問題や、噛み合い効率の点から現在の形になっている
後輪を駆動する車では、減速と同時にプロペラシャフトの回転方向を、車輪の回転方向に変更する役目もある
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