§5 車体のロールとステア特性について

ここでは車両がコーナーリングする時に、タイヤ間で発生する荷重の移動が、ステア性能に影響することを説明する

タイヤ間の荷重移動は車のステア特性に影響するが、影響度合いは使用するタイヤのコーナーリングパワー特性や設定空気圧も関係するので、最終的には車のキャラクターに合わせたそれらの調整が必要となる

 

 

1.サスペンションのロールセンターと車両のロール軸

 

コーナーリングでは車両がロールするが、ロールの中心(軸)となるのは、前後のサスペンションロールセンターを結ぶラインが車両のロール軸となる

 

代表的なサスペンションのロールセンター

 

①マクファーソンストラットサスペンション

左側のストラットトップマウントから直角に伸ばしたラインと、左ロアアームから伸ばしたラインの交点から、左側のタイヤ接地点を結んだラインを作成する

右側も同様なラインを作成し、左右で作成した最後のラインの交点Oがロールセンターとなる

 

②ウィッシュボーンサスペンション

左側のアッパーアームから伸ばしたラインと、左側のロアアームから伸ばしたラインの交点から、左側のタイヤ接地点を結んだラインを作成する

右側も同様なラインを作成し、両者で作成した最後のラインの交点Oがロールセンターとなる

 

③トーションビーム

左右のバネの上面を結んだ中央がロールセンターになる

(独立懸架でないので大きくロールしてもロールセンターの移動は考慮しなくてもよい)

 

 

①や②の独立懸架サスペンションではロールが始まると、図―1b'のようにリンクが揺動するため、ロールセンターが移動することになる

しかしロール角がそれほど大きくなければ、ロールセンターの移動量が小さいので、ロールセンターが固定されていると考えて良いよだが

ロールが大きくなった領域では別の考えが必要になる

 

図―1 サスペンション形式とロールセンター

 

2.サスペンションのロールセンターと車両の慣性主軸の関係

 

前後のサスペンションのロールセンターを結んだ車両のロール軸は、車体の慣性主軸と平行に設定するのが基本である(図―2)

ロール軸と車体慣性主軸の平行度が大きくずれてしまうと、理論的には車両がロールした時に前後重心周り(図―5のY軸周り)にヨーイングモーメントが発生してしまい、ドライバーの意図しない車両挙動が発生したり、危険回避走行性能が低下することになる

一人乗車、定員乗車でサスペンションのロールセンターは変化するから、実際は理想通りの設定は難しく、妥協点に設定する事になる

 

図―2 車両の慣性主軸とサスペンションのロール軸の関係

 

 

<解説>

慣性主軸とは

 

慣性主軸とは質量バランスが取れた軸で、全てのモノには重心を通り直交する3軸がある

図―3の左が慣性主軸に回転軸を合わせて回転させた状態で、ブレのないスムーズな回転となり、物体には回転以外の力が働くことがない

(車両の場合はX軸に近い慣性主軸を、前後のサスペンションロール軸を結んだラインを一致させることになるが、物理的に無理なので両者を平行にする)

 

右図は重心を通るものの、軸周りの質量がアンバランスで、軸を中心に回すと、アンバランスによるモーメント(矢印で表示)が働き、滑らかな動きが得られない

 

図―3 慣性主軸と運動中心の関係

 

車両の慣性主軸とサスペンションのロール軸との平行が保てれば、ロール時にヨーイング(車の重心を通るZ軸周りに発生する動き)の連成がないので、気持のよい走りができることになる

 

図―4 車両の運動3方向

 

 

3.車輪間の荷重移動

 

車両がコーナーリングすると遠心力が働き外側のタイヤに荷重が移動する

下式はコーナーリングにおける荷重移動量を求める式である

この式から荷重移動を低減させるには、

「重心を下げる」、「トレッドを広げる」、「ロール剛性を下げる」、「サスペンションのロールセンターを下げる」事が有効であることが読み取れる 

 

車両の重心が低ければ、ロールアームが少なくなり、ロールモーメントが減少するので、ロール剛性を低く設定することが出来、荷重の移動を少なくすることが出来る 

また、ロール剛性を下げることはサスペンションを柔らかめに設定させる事が出来るので乗り心地の面では有利になる

 

 

<解説>

ロールアーム

 

図―5に示すように車のロール軸と、車両の重心点の距離をロールアームという

ロールアームが長いと、テコの原理で車は大きくロールすることになる

 

図―5 ロールアーム

 

ステア特性で説明したが、図―6に示すようにタイヤのコーナーリングフォースは、輪荷重が少ない領域においては、輪荷重の変動に対し略比例しているが、

輪荷重の大きな領域では輪荷重の増加に対しコーナーリングフォースの増加が少ないというタイヤ特性がある

 

図ー6 タイヤ荷重とコーナーリングフォースの関係(荷重移動時)

 

コーナーリングで車両に遠心力が作用し車体がロールすると、内側の車輪から外側の車輪に荷重が移動する

荷重移動がない状態ではCF1の大きさのコーナーリングフォースが左右輪に発生するので、前軸合計ではCF1×2のコーナーリングフォースがえられる

荷重移動が発生しても、左右輪荷重の合計は変わりませんが、コーナーリングフォースの非線形(図に示すようにタイヤ荷重とコーナーリングフォースの関係が直線でない)特性によって、荷重が減少したタイヤ側(内輪)のコーナーリングフォースの低下は、荷重が増加しコーナーリングフォースが増加するタイヤ側(外輪)よりも大きくなる

従って、

 

荷重移動が大きくなると左右輪のコーナーリングフォース合計はCF2外輪+CF2内輪のCF2となり、荷重移動しない時の左右輪合計CF1に比べて大きく低下することになる

比較的荷重移動少ない時の左右輪のコーナーリングフォース合計はCF3外輪+CF3内輪のCF3となり、荷重移動が大きな場合よりも大きなコーナーリングフォースを得ることが出来る

 

以上のように、荷重移動を極力少なくすることが、タイヤのポテンシャルを有効に引き出すことにつながる

 

4.荷重移動によるステア特性の変化

 

前後輪の発生するコーナーリングフォースの着力点(前後輪のコーナーリングフォースがバランスする位置)をニュートラルステアポイント(NSP)と呼び、このニュートラルステアポイントと車両重心の関係が車の挙動を決めることになる

図―7ではニュートラルステアポイントが重心よりも後方にあるので、車には左廻りのモーメントが発生し、アンダーステアが現れる

 

ニュートラルステアポイントが、重心位置に一致するとニュートラルステアとなる

ニュートラルステアポイントが、重心位置より前にある場合はオーバーステアが現れる

コーナーリング中に、アクセルをオフして前輪に荷重移動すると、重心位置より後方にあるニュートラルステアポイントが、重心より前に移動することでオーバーステアが現れる

 

図―7  ニュートラルステアポイント

 

極端にステア特性が変化すると、ドライバーがステアリング操作をして、車両を安定させる必要になるので、横力、前後力に応じてトー角コントロール等を行い違和感のない範囲のステア特性を得る必要がある

このようにニュートラルステアポイントの位置は、前後輪のコーナーリングフォースの関係で決るので、前後のスタビライザーの剛性を含めたサスペンションのロール剛性を変えることで、左右前後輪の荷重移動量をコントロールさせたり、コンプライアンスステアを利用してステア特性を調整する必要がある

 

前述したように車両の重心が高いと、旋回や減速で車輪間の荷重移動が大きくなり、ニュートラルステアポイントの移動量が大きくなりステア特性に影響を与えることになりますので、重心を低く抑えることが車両の運動性能や乗り心地の面から有効である