§6弾性支持による振動の遮断

 

弾性支持による振動遮断の原理

 

振動を遮断する場合において、多くはゴムマウントに代表される弾性支持方法を行うが、ゴムさえいれておけば振動が遮断される訳ではなく、遮断する振動の周波数に適した弾性支持を設定する必要がある。

 

振動の遮断は下図に示すように、この時の質量Mとゴムのバネ定数Kで発生する共振点f0 の√2 倍以上の周波数で振動の伝達率を下げる(遮断)ことが可能となる。

共振点の√2 以下、特に共振点のf0 付近では伝達率の低減どころか、伝達率は増大し振動騒音現象の悪化をまねく。

 

 

 

 

 

従って弾性支持によって振動を遮断したい場合は、改善したい周波数を明確にし、それに応じた支持剛性を設定しなければならない。

つまり共振点f0 可能な限り低くとれば多くの周波数帯の振動伝達率を低減できることになる。

但し、それにはM(重量)を増やすかK(バネ定数)を下げることが必要で、前者は重量の増加を伴い、後者は支持剛性不足による不具合をまねき易い。

 

上図の説明を続けると、共振点より少し下の周波数では、起振力とゴムを介して伝わる値からは同相(同じ方向)である。

(両者の力の作用に時間的な遅れがない。この場合正確には少ない)図中Aの領域である。

共振点では起振力とゴムを介して伝わる力の位相が90°ずれて伝達率は最大になる。

(両者の動きが90°ずれる、つまりMの動きが基礎に伝わる時間が1/4周期遅れることになる)

 起振力より伝達される力の方が大きくなる。図中Bの領域である。

 

さらに共振点の少し上の周波数からはMの動きとゴムを介して伝わる力は逆相(逆の方向)となり、Mに働きかける力に対してそれを打ち消すように力が作用する。

この領域こそ正に弾性支持によって振動伝達率が下がる(遮断)領域である。

 

 

  振動遮断のメカニズムを体験するために、輪ゴム6ヶ、5円玉6ヶを用意して図-19の様にセットする。(輪ゴム6ヶ、5円玉6ヶがやりやすい)

 

 

最初ゆっくり手を上下させると、手と5円玉は上下に同じ量だけ動く。

これが最初の図のAに相当する領域である。

 

手の上下の回数を除々に上げていくとある点で5円玉は激しく上下し、手の上下量よりも5円玉の上下量が大きくなる。

これが最初の図のBに相当する共振領域であり、力の伝達はMax.となり1を越える。

この時の周波数はゴムで吊るした5円玉を下に引っ張って放したときの自由振動させたときの振動数と一致する。

 

さらに手の上下の回数を上げていくと、やがて5円玉は殆ど動かなくなる。

これが最初の図のCの領域で、ここで始めてゴムマウンテイング(弾性支持)の効果が現れる。

 

したがって振動遮断だけを考えれば質量はできるだけ重く、バネ定数はできるだけ柔らかい方が振動遮断の領域を低周波まで広げることが可能となり、より多くの周波数域を、また同じ周波数ならより多く振動を遮断することができる。

  5円玉の数と輪ゴムの数を変えてもう一度トライすると、この関係が体感できる。

 

 

前述したように、最初の図のBの領域では、振動を遮断する目的の弾性支持も、共振域では振動を増幅してしまう欠点を持っている。

この共振域のレベルを下げる働きが減衰力Cであるが、また逆にこの減衰力によって振動遮断周波数域(前述のf0*√2<)の振動遮断率を低下させてしまう。

 

本来の振動遮断の目的からすれば、減衰力は出来るだけ小さい方がよいが、共振点時の振動レベルも無視できないので、現状に最適な値を選ぶ事や、起振力の大きくない周波数領域に共振点を設定するなどのチューニングが必要である。

 

最近ではこの相反する問題を両立させる目的で液体封入式マウンティングシステムがある。

原理は振幅の大きい共振点付近ではマウント内部の液体がオリフィスを通過するときの抵抗による粘性減衰で振動レベルを低減させ、それ以上の周波数ではマウントを構成しているゴム自体の減衰を利用する。

 

ただし現時点の液体封入式では、高周波域で液の目詰まり等の発生によりバネ定数の上昇があり、それによる振動伝達が問題となるので、起振力の高周波領域が大きいような場合は副作用が大きい。

 

現在このような副作用の改善を図るべく、メーカーにおいて研究開発中ではある。

最近では高周波域の動バネが高くならないものが出来るようになった。