§4 振動の形態 (モノの振動のし方には二つの形がある)

 

①剛体振動

振動するモノ自体の形状が変形せず、振動するモノ内の各点は相対変位がない振動形態

(共振周波数のところで説明したように、錘が形を変えず上下に動くだけの振動)

 

剛体振動の概念図

 

身近な他の例では、アイドル時のエンジン振動、サスペンションシステム全体、ディファレンシャルケースなどが「剛体振動」

 

例えば後輪駆動系にあるディファレンシャルケースはエンジンの駆動トルク変動を受けてピッチング方向に振動し、この現象を剛体振動という

この振動が大きいと室内のこもり音の原因となるので、ディファレンシャルケースリアマウントに液体封入式ブッシュを取り付け、

「§ 1で何故モノが振動(共振)するのか」で説明したように、液体の粘性抵抗でディファレンシャルケースの剛体振動を低減させる事で室内音の悪化を防ぐ

液体封入ブッシュの振動減衰については、§ 7 ゴムの特性 静ばね定数・動バネ定数で説明する

 

リアディファレンシャルケースの剛体振動

 

②弾性振動

しかし鋼板などでは、§1何故モノが振動(共振)するのかで説明したような、バネや錘等が見当たらない

振動するモノ自体がバネや錘を自ら作り出している

これが弾性体そのモノの振動、「弾性振動」である

振動する系内の各点に相対変位のある振動で、形状が変化する振動形態

 

弾性振動の概念図

 

車体全体、車体のパネル、サスペンションメンバーなどの振動が弾性振動

 

下図は梁の振動モードを表している

 

 

梁の振動モードとその模式図

 

固有値(共振周波数)の振動数が一番低いモードが1次モード

模式図で表すと右側に示したように、中央に質量(Mass:錘に相当)があり、それを両端のバネ(Kはドイツ語のバネ定数Konstantの頭文字:ゴム紐に相当)で支えていることになる

(図ではMやKが上下に示されているのは、上下に振れている状態を表しているため)

2次モ-ドになると質量(錘)が二つに分割され、バネ(ゴム紐)も三つに分割される

3次モードも同様に質量(錘)が三つに分割され、バネ(ゴム紐)も四つに分割される

というようにモードは無限に発生する

 

梁の場合は一辺だが、パネル(鋼板など)の場合は二辺となるので、下図に示すように各々の辺の次数に応じた振動モードが発生することになる

 

パネルの振動モードとその模式図

 

図の下部にあるのは縦方向の3次曲げモード、横方向の2次曲げモードの場合の振動の状況をイメージで表している

左側が振動モードで右側がその時の質量とバネを模式図にしたものである

図中の矢印は振幅の位相(方向と考えても良い)を表している

実際の振動では相反する方向に往復することになる

 

この様にパネルの共振周波数も無限に発生することになるが、高次になるほど振動の大きさが小さくなる性質がある

そのため振動を感じたり、それに伴い発生する騒音も小さくなるので、多くの場合問題は起こりにくい

 

梁もパネルも理論的にこのような共振周波数を有するが、実際の構造では色々な形状に成型されるので、説明にあるような単一なモードは存在しない(モードとしては基本形に近いモノも多くあるが)

 

従って上図の様に綺麗な振動モードにはならず、質量とバネを適度に分割しながら共振周波数を持つことになる

この共振時の振動モードを起こり難くするために、パネルにビードを設定したり、補強材や制振材を張り付けたりして対応することが一般的である

 

車体や車体パネル、サスペンションで問題となる振動は殆どがこの弾性振動である

構造体がある限りこの弾性振動は存在するので、共振周波数を振動源の周波数から遠ざけたり、振動振幅を低減させるなど、振動をコントロールすることが振動技術である

 

下図は車体全体の弾性振動を表している

 

車体の低次振動モードとその模式図

 

左側が車体の低次(低い周波数)の曲げ振動モードを表し、この時のバネとマスの模式図が右側である

この弾性振動が、車の乗り心地や車体の剛性感に影響を及ぼすので、可能な限り振動(振幅)の大きさを抑える必要がある

車体自体がバネ(K:弾性体)でありマス(M:錘)である

 

特に、この振動モードでは車体の上部構造の剛性が重要であるので、オープンカーは振動的に極めてふりであり、対応として車体下部構造で上部構造の不足を補わなくてはならない